
日本語学校で中級のクラスを受け持っているんですが、中級なのに会話力がない学生がいます。どうしたら会話力を伸ばすことができますか?

わかります……私の担当学生にもそういう人は必ずいます。私が色々試している方法をシェアしますね。
こんにちは。日本語教師のさじここです。
2025年8月に開催した私の無料オンラインセミナーに参加していただいたみなさま、誠にありがとうございました!😭
先日セミナーを開催した際に、多くの先生方から「会話力をどう伸ばすか」「発音をどう指導するか」という質問をいただきました。
日本語教師にとって会話力向上や発音指導はとても大きなテーマですよね😌
今回は、私が授業の中で実践している工夫をご紹介します。
- 学習者がなかなか会話できなくて困っている人
- 中級なのにどこか滑らかに会話できないんだけどどうしたらいいか悩んでいる人
- アクセントやイントネーションが気になってるがうまく指導できない人
- ペア会話の活動に積極的にならない学生への対応に困っている人
全てのレベルで実践できそうなことを書きましたので、ぜひ最後までお読みいただけると嬉しいです😄
お悩み1:ペア会話練習がうまくできない学習者

寄せられたご質問の中に
「会話練習をペアでさせているが、学生同士のレベル差があってうまくいかない」
「会話練習に消極的で日本語で話さない」
というような内容のものが複数あり、現場の先生の葛藤が感じられました。
特に今、「文法積み上げ式→タスク中心の教授法(TBLT)」という流れなので、会話練習やグループでの活動をたくさんするようになってきているのではないでしょうか?
クラスの雰囲気や学生の性格によってはうまくいったり、いかなかったり……
教師側のクラスマネージメントや雰囲気づくり、ファシリテーターのスキルが試されやすい気がします😅
うまく会話練習が進まないなぁ……反応がイマイチだなぁ……と感じるとき、私はまず、「学生を観察して、理由を探す」ことを心がけています。

事例1:ペア練習ができないAさんの話

私の日本語学校の経験をお話しします。
クラス授業でペア会話練習をすると、たいてい、すらすら発話できる学生と、なかな発話できない学生が混在しています。
初級1のクラスのAさんという学生は最初のころはそこまで気にしなかったんですが、3ヶ月ぐらいたったある日、明らかに周りよりも会話ができていなくなっているAさんに気がつきました。
「たまたま今回だけかな?違う文型、違うペアだったらうまく会話練習ができるかも?」
と思い、ペアを変えたり、会話練習の内容もちょっと難易度を下げたり……と、しばらく試行錯誤しました。
でも、どうもAさんだけはどんな方法でアプローチしても会話が進まず、みかねたペアの相手が助け舟として言ったことを繰り返すだけ……😔
そんなAさんにペアの相手も会話を続けるのが難しくなり、お互い黙る……私がサポートする。
でも、私が他のペアのところを見回りに行くと、またAさんたちは沈黙……
正直、お手上げ状態でした。
でも、Aさんはまじめな学生でしっかり話を聞いています。
別にクラスに打ち解けていないとか、ものすごくシャイとかではなさそう……
現に、活用の口頭練習のリピートの声はとにかく大きい(笑)
「なぜなんだ?!🌀🌀」と毎回頭を悩みながら後ろからAさんを眺めていたところ、私はあることに気がつきました。
Aさんはみんながノートにメモしているなか、ノートなどにメモすることなくぼーっとしていました。
もしかしたら、脳内で瞬時に記憶しようとしているのかもしれません。
でも、たくさんの情報を短期間で暗記できる人はそんなにいないと思います。
なので、文型導入してノート書く時間のあとの口慣らしのパターンプラクティスはAさんはできますが、その後の応用の会話の時間になるとだんだんさっきやった文型や語彙を忘れてしまう……
結果、だれかに教えてもらえないと文を作れないという状況になってしまっていたみたいです。
私はAさんと授業後少し話して、毎回ノートと鉛筆を持ってメモしたほうがいい、忘れても見返せるから便利であることを伝えました。
ノートにメモをすることは彼の勉強スタイルにはなかったみたいで、初めは「自分はその場で暗記できる!ノートは必要ない」と言っていました。
私は無理強いはせず「とりあえずやってみたら?」とだけ彼に伝えました。
その後、Aさんは周りのできる学生がノートをとっていることに気がつき、自身もノートにメモしたほうがいいと思ったのでしょう。
毎回他の学生と同じようにノートを持ってきてメモするようになりました。
それから、Aさんはメキメキと会話が上手になっていき、他の曜日の先生からも「Aさんすごい上手になったね」と言われていました。
使える語彙も増えて、わからない時は相手に教えてもらうのではなく自分のノートから探す、手を動かして覚える……
そういう積み重ねでAさんは上達していったような気がします。
これは、たまたまうまくいった事例かもしれません。
みなさんのクラスの中にも、うまく会話練習ができない学生は、Aさんのように「メモを取る習慣がなくて、忘れた時にすぐ勉強した語彙文法を見返す方法」を持っていない可能性があります😅
「教科書があるから大丈夫!」という学生もいますが、よくできる学生ほど自分の言葉で整理してノートをとっています。
授業中にきちんと学生がメモを取っているかどうか、ちゃんと正しく情報を書き留められているか時々確認してみましょう!
ノートに整理されていれば、会話練習の時にも引き出しやすくなりますし、家に帰って復習することもできます✨✨
会話でも反復練習は必要です。
授業中の限られた時間だけで、ものすごく会話が上手になる人なんていないと私個人は思います。
「ノートを見ながら会話練習なんて実践的じゃない!」と思われる先生もいらっしゃるかもしれませんね。
でも、授業は実践の練習の場です。
見ながらだっていいと私は思います。
とにかく何回も練習する、そうすると学生は飽きてきて、自分で文を作ってみたくなりますから(笑)
初めはスモールステップでいいと思います。
大きなステップは挫折してしまうかもしれない、できない自分にがっかりしてモチベーションも下がってしまいがちです。
できることを増やすためには、「ノート見ながら→見ないで会話→自分オリジナル会話」みたいなスモールステップを意識してみると、いろんな学生に対応した会話練習ができると思いますよ。
会話ができないとお悩みの先生のクラスの学生はちゃんとノートをとっていますか?
- 学生はノートなどに授業内容をメモしてから練習に臨んでいますか?
- 最初は「ノートを見ながら練習→ノートを見ないで言う→自分で自由に会話を作ってみる」のスモールステップを意識して練習を組み立てていますか?
事例2:会話練習の活動自体があまり好きじゃなかった私の話

「会話練習に積極的ではない人はどうしたらいいですか?」というお悩みもいただきました。
そういう人はそもそもペア活動が苦手で個人作業を好む傾向がありますよね。
ちなみに、私は中学生の時、ペアワークやグループワークが大嫌いでした😔
自分のペースで勉強したかったし、あまり仲良くない人とペアを組まされるのも嫌でした😅
自分の意見を言った時に否定されたり、発表しているに笑われたり、自分だけ頑張ってて他の人がなにもしなかったり……
そんな雰囲気があったときも、正直、「一人で勉強したほうが効率がいい」と思いました。
そんな私でも、中2のときのクラスや、高校のときはペアワークやグループワークはとても楽しいと思いました。
「何が違ったんだろう?」とふと思い返したら、やっぱり「クラスの雰囲気の違い、先生のクラスコントロール」だったな……と。
クラスの中がギスギスしていたり、相手のことを悪くいうような雰囲気のクラスではなかなか発表やペア活動はしにくいと思います。
教師がみんなに楽しく活動してほしいと思うなら、教師自ら率先してそういう「雰囲気作り」を心がける必要があるかと。
もしかしたら、学生の心境も変わるかもしれません。
「相手と高め合う、間違っても大丈夫!」そんなポジティブな雰囲気があると学生同士も安心して活動できるのではないでしょうか。
でも、学生にも今までの学習スタイルがありますから、無理強いする必要もないのかなと思ったりもします。
どうしてもやりたくない学生はそっと「やりたくなったら教えてね」と言ってそっとしておいたりすることもあります。
無理強いしてもいいことはないので……😅
そういうこともあるので、ペアを固定するのは私個人としてはあまりお勧めしません。
友達同士でワイワイやっている時はいいですが、反対にレベル差があっていつも片方に負担がかかるのは避けたいですよね。
毎回同じ人だとマンネリ化もしますので。
なので、私は基本的にペアの組み方は教師がコントロールするようにしています(座る座席を毎回私が指定する)
そうする仕組みを最初から作っておくと、「学生はペアは先生が決める、そういうものだ」とちょっと諦めてくれます(笑)😅
とにかく、会話練習の上達にはペア練習&雰囲気作りじゃないかと思っています!!
もちろん、学生自身の問題(能力、性格)もあるとは思いますけど、他の視点でも考えてみると突破口が見えてくるかもしれません!
- クラスの雰囲気は発話しやすいポジティブな雰囲気ですか?
- ペアを固定化させていませんか?

おまけの話:クラスは国際会議

私が受け持つ中級や上級のクラスでは、発表したり、グループで話し合ったりすることが多いので、学生の中には他者の意見や発音に笑ったり、失礼な態度を見せる学生も時々いたりします。
先学期の私の上級のクラスで一生懸命自分の意見を話すある学生に対し、隣の学生がくすくす笑っているのを目撃しました。
みなさんはそんなとき、どうしますか?
適当にやり過ごす or 失礼な態度をとった学生に対して注意する or 見てみぬふりをする……??🧐
私のクラスの出来事は、ほんとに突然で、ほんの一瞬の出来事だったんですが、私は見逃してはいけないと思い、「なぜ今笑ったのか?」と該当学生にすぐさま聞きました。
言われた学生は「笑っていません」と言いましたが、「私のクラスでは人の発音や発表内容馬鹿にしたりすることを許しません」と毅然とした態度ではっきりみんなの前で伝えました。
私の行動が必ずしも正しいとは思いません。
その場では注意しないほうがいいとか、いろいろな考えがあると思います。
でも、今までこのようなことが起きたときに対応を間違えてある学生を傷つけてしまった経験があるので、私はこのような態度を取るように心がけています。
「そういうとき自分ならこうする……」という強い信念を持って授業しないと、それ以降の学生との関係や会話練習などの雰囲気が変わってしまうかもしれません。
「教師側が絶対に、はぐらかしたらダメな時がある、クラスは国際会議と一緒!」
私が日本語学校のときにある先生から教えられたことです。
最近も中級レベルでセンシティブな話題をクラスにわざと持ち込んで笑いを取ろうとする学生がいました。
差別的な発言を一度許してしまうと、言ってもいい雰囲気が生まれますので要注意です。
また、初級よりも中級、中級よりも上級……レベルが上がるにつれて話し合う内容も複雑で社会情勢が絡み合う内容になっていきます。
講義型の授業ではあまり起きなかった問題がお互いの意見を話す会話活動などになると、このようなことも出てきやすくなるかも……🧐
考え方はそれぞれありますが、
「自分が言われて嫌なことを他人に言ってはいけない」
「言い方に気をつけないと自分の評価を下げる」
このようなことも日本語と合わせて伝えていく必要が最近では強まってきているように個人的に感じます。
また、「経済」を語るにしても、文化、国と国、歴史、宗教など、いろんなことが複雑に絡み合っていますよね。
教師側は意図してなくても、もしかしたら一部の学生にとっては「話題にしたくない、話したくないことも授業で扱ってしまっている」可能性もでてきます。
このことを日本語教師側は心に留めておかなければ、そして世界情勢にも敏感でなければいけないと思っています。
だから、先述したと被りますが、トピックによっては積極的に話さない学生がいたとしても、無理強いはせずに、そっと「違うトピックでもいいよ。何か他に話せるものはある?」と声かけするのも教師の大事な役割かと。
学生を観察しながら会話練習の内容や、やり方を見極めることが大切です😀
- 他者が傷つく発言を学生がした場合、教師としてあなたはどう対処しますか?
- 会話練習やディスカッションをするとき、学生をよく観察していますか?

発音・イントネーション指導におすすめ:「シャドーイング」

「発音が気になる」「イントネーションがちょっと不自然」……そんな学生には、毎回5分だけでもシャドーイングを取り入れるのがおすすめです!
学生は自分が「日本語の音声を正しくキャッチできていない」ことに気づいていない場合も多く、聴解力の強化にもつながります!
「シャドーイング」聞いたことあるけどやったことない人が結構私のクラスにもいて、以下のテキストを用いて毎回10分程度やっています。(クリックするとAmazonサイトに移動し、サンプルが見られます)
短時間でも継続して行うことで、音声面はもちろん語彙の強化にも繋がっている気がします😆
たとえば、「お疲れ様です」と言われて理解できるようになったり、天気の話題を指導教員の話のきっかけに使えるようになったり、お店やレストランでの日常会話のやり取りが自然とできるようになったり……!
毎回シャドーイングの目的を学生に説明し、やり方を理解してもらうのにちょ〜っと一苦労しますが(みんなリピートになってしまう🌀)……毎回授業の最初の10分やると習慣化することで、日本語モードに学生は切り替わるようになった気がします。
詳しい進め方は上記のテキストを参照ください。
ちなみに、中級以上や就活生・アルバイト・進学編↓もありますよ😃
⭐️シャドーイング 日本語を話そう! 就職・アルバイト・進学面接編
クラスでしなくても自学学習としてもできると思うので、学生に勧めてみるのもいいかと!
接続詞とリアクション(あいづち)を積極的に教える

会話をスムーズにするには、文法や語彙だけでなく接続詞やリアクションも重要な要素です。
たとえば、「でも」「それで」「ところで」などの接続詞や、「そうですね」「たしかに」「なるほど」といったリアクション表現です。
また、「相手と何か個人的に話したいことがあるとき」はみなさんは最初、何から言いますか?
「今お時間よろしいでしょうか」みたいな相手の都合を確認したりするフレーズをよく使っているのではないでしょうか?
こういうフレーズやクッション言葉を学生に明示的に教えると学生は喜んでくれます。
割と汎用性があり、すぐ覚えられるワンフレーズなので、すぐ使いたくなるようです。
でもこちらから教えるばかりだとすぐ忘れてしまうので、学生が日頃から電車の中やアルバイト先などの日本人同士のやり取りを観察して収集させるように促すことのほうが記憶に残りやすくなる気がします😀
授業で「こういうときはどうやって声かける?」みたいにアイディアを出し合うと、互いに収集した情報でより記憶が強化、場面も意識できるようになりますよ。
初級では難しいかもしれませんが、中級以降はおすすめです。
場面を説明する練習にもなりますし!
また、会話が上手な学習者は、実は相槌やフィラー(えーと、あのー)を自然に使っていますので、会話練習でフィラーについても取り上げてみるのもいいかもしれません✨
会話練習にはテキストに書いていない情報、学生の興味のある内容も取り入れてみてください😀
教師も雑談にチャレンジ

最後に大切なのは、教師自身が学習者と会話を楽しむことじゃないかと😆
私はおしゃべりなほうなので、雑談大好きでむしろよく脱線してしまい、時間が〜〜!ってなってしまうタイプです😅
でも、「雑談力」という本が売れているように、雑談って苦手な人もいるのではないでしょうか?
教師がそういう場合はむしろメリットかもしれませんよ?
日本人との雑談がうまくいかない学生の気持ちに共感できると思いますし、自分のやっているノウハウを伝えられるかもしれません。
私は反対に雑談は意識せずに、相手の話に食いついて話を広げてるだけなので、いまいち雑談指導の仕方といってもピンとこない……
先述したシャドーイングに「スモールトピック」に関するモデル会話があるので、そういうのを学生に提示してあげるのも一つの手かもしれません。
アイスブレイクとして毎回お題、たとえば「私の好きな〇〇」みたいなものを与えて、話を広げる練習をする。
どんな質問ができるか出し合う……みたいなことをすると、質問レパートリーが増えて会話が続くかもしれません。
「アニメを見ましたか?」「週末はどうでした?」といった軽い話題から始めるだけでも、学習者にとっては大きな実践の場になります。
答えることはできるけど、なかなか質問ができない、苦手な学生はいます。
教師側がいつも質問しているとそうなってしまいがちなので、学生から質問をしてもらう時間を作ってみてはいかがでしょう?
授業に雑談の余白を少し作るだけで、会話力アップのきっかけになるかもしれません😄
まとめ

「学習者の会話力の向上」についての質問をテーマに色々私の実践や経験を書いてみましたが、どうでしたでしょうか?
だらだらと思いつくまま書いてしまったので、みなさんの知りたい内容が網羅できていなかったかもしれません😅
「なかなか会話が上手にならない……」
これは言語教育の永遠のテーマかもしれませんね(笑)
これが解決できるなら、日本人みんな英語がペラペラになっているはずです😂
会話は実践あるのみ!と私は思っているので、学生にクラスの外でこそ練習する必要があるといつも口酸っぱく伝えています。
偉そうなことを書いている私も、クラス全員の会話力を向上させることはできていないし、私の教え方や練習の仕方に不満を持っている学生もいると思います。
でも「クラスで勉強するならお互い楽しいほうがいいよね!」をモットーにしていますので、まずは自分が肩の力を抜いて、学生と楽しめそうな会話練習を組み立てるようにしています。
会話練習に正解はありませんから、「何を目的とした練習なのか?」さえしっかり押さえて組み立てていれば私はOKだと思ってます!!
こんな内容でしたが、最後までお読みいただけて嬉しいです。
今後もいただいた質問に少しずつ回答する記事を書いていく予定です。
ブログでは真面目な話しか書いていませんが、noteの方ではブログの更新情報とともに近況報告や私のどうでもいい日本語教師の小ネタなどを書いています。
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最後までお付き合いいただきありがとうございました!!✨
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